Teslaにみるトヨタ生産方式(Lean)とデジタル戦略

どのような組織に変えていくのか?

Teslaのような製造業であれば、当然、企業として製造ラインの付加価値を高め生産性を上げることを考えます。

そこで否が応でも参考にしなければならないのがLean、トヨタ生産方式です。

製造業に限った話ではないのですが、今回はYouTubeにアップされている3年前のTeslaの工場におけるElon Musk氏の工場紹介を見ながらどこからどこまでがリーンの話でどこからどこまでがアジャイルの領域なのかを見ていきたいと思います。

レベルの高い生産ラインをデザインするために、トヨタ生産方式やLeanを研究し導入し始めた様子が伺えます。ビデオの途中で「目で見る管理」版があったり品質の看板を掲げたりしています。しかし、この3年前のTeslaの工場のラインスピードは非常に遅く、働いている人も流れるように仕事が出来ていません。

生産ラインのあるべき姿がはっきりとしないまま、自動搬送機を入れたりロボットを導入しているのでしょう。ラインに流れが出来ていないことがわかります。

Leanには、3つの生産性という考え方があるのですが皆さんご存知ですか?

①労働生産性(人の仕事)

②材料生産性(素材の良し悪しなど)

③設備生産性(ロボットなど)

トヨタ生産方式は労働生産性から順番に設備生産性を追求していくのですが、Teslaは資金力にものを言わせて③の設備生産性から入って行ったことがわかります。

なぜ、①労働生産性から追求するのか?それはリーンスタートアップもトヨタ生産方式から来ているので考え方が同じなのですが、コストをなるべくかけない、スタートアップは資金が乏しいという前提からスタートしています。設備を導入する余裕がないことを前提としているのです。

設備を導入しても利益が出ないのでは減価償却ができないため破産します。なので、固定費や変動費としての人件費の中で生産性を追求せざる負えないのです。

しかし、Elon氏は潤沢な資金にモノを言わせて、①労働生産性や②材料生産性を飛び越して、③最もお金がかかるがうまくいけば非常に高い生産性が生まれるパンドラの箱を開けてしまったわけです。新たな生産システムの世界への挑戦です。

このトヨタ生産方式やLeanの常識からは考えられない設備生産性への挑戦は、また新たな次元でのロボットなどの新しいハード(設備)のニーズを生み出しました。この生産システムにおいては、今まで人間が対応してきた部分を全て機械に置き換えるために非常に高度なハードとソフトウェアの開発が求められることになったのです。

ここまでの話を整理すると、ここまでの生産に関わる流れの考え方は、Leanの考え方になります。

新たな生産システムを支える手段として設備があり、設備生産性を究極的に追求するためのハードとソフトウェアが求められてきたという流れです。これはリーンの考え方の範疇になります。

この流れの中で新たな生産システムを支えるハードウェアとソフトウェアの世界に入ってくるとアジャイルの話になってきます。

つまり、組織、経営の視点で考えるのはLeanの視点であり、それを実現するためのハードウェアと「ソフトウェアの方法論」がアジャイルという区分けになっていくのです。

新たな世界を正しく追求するためには、Leanだけでも足らないし、アジャイルだけでも足りません。この両方がバランス良く生産システムの中に融合する世界が次の世界なのです。今回企画しているLean Conference Japanの目的もそこにあります。Leanとアジャイルの融合です。

Teslaのやっていることはカッコイイなぁ。俺もTeslaを追求するぞ!!と意気込んでTeslaのように設備生産性から入っていくと大火傷をすることになるかもしれません。

設備というのは一度入れるとアップデートすることが難しくなってきます。随時、新たな設備とソフトウェアを投入し続けるのはよほどの資金力がないとできない仕事です。

資金的が潤沢にない場合にはどうするか?

昔、トヨタがベンチャーだった時にやったトヨタ生産方式(Lean生産方式)、つまり、リーンスタートアップのように知恵と工夫と共通の価値観と原理原則を浸透させて企業文化を構築しながら極限の労働生産性に挑戦することになるのでしょう。海外ベンチャーも最初はトヨタを真似してやってきたのだと思います。(記事:アイティ・マネジメント研究所 高木 徹)